よくある質問
Q.過払い金裁判での和解に代わる決定とは?
過払い金の請求をして裁判を起こした場合、和解による解決になることが多いです。
そのなかで、和解に代わる決定という手続がとられることがあります。今回は、和解に代わる決定について解説します。
和解に代わる決定とは
和解に代わる決定は、簡易裁判所が出す決定です。
裁判所が、当事者間の和解の代わりに、請求の分割支払いなど支払いの内容を定めて出す決定です。
過払い金の請求では、裁判を起こした後、和解に代わる決定で過払い金を回収して解決となることも多いです。
実際には、裁判所が一方的に決めることはほぼなく、当事者間で合意ができ、その内容を裁判所に伝えて決定されます。
和解に代わる決定と民事訴訟法
和解に代わる決定は、民事訴訟法に条文があります。
金銭給付請求で簡易裁判所に事件が係属している必要があります。
そのうえで、被告が請求を争わない場合に、簡易裁判所は、和解に代わる決定をすることができるとされています(民訴275の2)。
和解に代わる決定と異議
和解に代わる決定が出された場合、異議申立期間内に異議の申立てがなければ、裁判上の和解と同一の効力を有します。裁判所で和解が成立したのと同じ効果ということです。
異議が出されると、和解に代わる決定は効力を失ってしまいます。
当事者は、和解に代わる決定の告知を受けた日から2週間以内に、異議を申し立てることができるとされています。
和解に代わる決定と分割払い
和解に代わる決定では、分割払いも可能です。
条文上は、5年を超えない範囲内において、支払時期の定め、分割払の定めをすることができるとされています。
5年の起算点は、決定告知日の2週間後とされています。
5年を上回る分割払いの和解
条文上は5年と明記されているのですが、裁判所によっては、5年を上回る期間での和解に代わる決定を出しているところもあるようです。
過払い金の裁判ではあまり関係がありませんが、金融機関から借主に対して起こされた裁判では、5年の分割払いでは返せないこともあり、これを上回る期間での分割払いの和解が成立することも多いです。
その際に、和解の手段として、和解に代わる決定が出されることもあるのでしょう。
答弁書後の和解に代わる決定
条文上は、被告が請求を争わない場合とされています。
しかし、実務上は、答弁書で被告が請求棄却を求めるなど、争っている場合にも和解に代わる決定は使われています。
最終的に、被告が、原告の請求を前提にする和解案を提出するような場合には、この要件を満たすとされているのです。
和解に代わる決定のメリット
裁判上の和解では、原則として当事者が出廷して合意します。
これに対し、和解に代わる決定は、当事者が出廷しなくても出せます。
出廷の負担がかからない点が特徴的です。
裁判期日で和解に代わる決定を出す場合には、原告だけ出廷し、被告は欠席するのが一般的です。
過払い金の裁判では、消費者金融やクレジット会社は必要がなければ、裁判期日に出廷しないので、この手続によるメリットを受けられるのです。
強制執行・差押えができる
和解に代わる決定も、裁判上の和解と同じ効力となるので、支払いがされなかった場合には、強制執行・差押えができます。
裁判外での和解だと、このような効力はないので、裁判外の和解よりも強い効力があるのがメリットにはなってきます。
先の期日の支払いも可能
過払い金裁判で、和解に代わる決定が使われるシーンとして、支払い期日が先の場合があります。
過払い金で裁判を起こした後、消費者金融等と裁判外で交渉することは多いです。
そこで回収金額について合意できた場合の進め方には2パターンがあります。
一つは、裁判外で和解をし、裁判を取り下げるもの。
もう一つが裁判上の和解で進めるもの。ここに和解に代わる決定も含まれます。
前者の裁判外で和解をし、裁判を取り下げる場合には、業者との間で過払い金の金額、時期などを記載した和解書、合意書を作ります。業者との間では、訴外和解などと呼ばれます。
ただ、このような合意書を作っても、本当に払われるかどうかわかりません。そのため、通常は、和解書を作り、過払い金が実際に支払われたら、裁判を取り下げるという流れで進めます。
支払いまでは裁判が続くことになります。しかし、裁判の口頭弁論期日を開いても、和解が成立していて支払いを待っている段階だと、何もやることがありません。
そこで、通常は、裁判期日を変更してもらい、支払い予定日よりも先に指定してもらいます。
たとえば、7月に和解書が成立、裁判期日が8月、9月に支払い予定日という場合、8月に予定されていた裁判期日を10月以降に変更してもらう方法です。
過払い金の裁判では、多くがこのように対応していました。
しかし、最近では、支払い予定日がかなり先になってしまうことが増えました。
3ヶ月、4ヶ月先ということも増えました。このような場合に、裁判所での裁判期日を変更してもらおうとすると、次回期日が6ヶ月先などとかなり先になってしまいます。そこまでの延期はできないとして、裁判手続を終わらせるために、和解に代わる決定が使われるようになりました。
和解に代わる決定が出せるなら、裁判手続は終了となります。業者としても、過払い金をしっかり払うのであれば、裁判外の和解でも、和解に代わる決定でも良いはずです。
多くの業者は、抵抗せず、和解に代わる決定での手続きを進め、過払い金を返してくるようになったのです。
裁判上の和解だと、業者側も出廷が必要ですが、和解に代わる決定であれば、出廷は不要、業者側は書面だけで進められるので便利なのです。
和解に代わる決定のデメリット
和解に代わる決定は、簡易裁判所でしか使えないのがデメリットです。
過払い金の裁判では、過払い金の元金が140万円以上であれば、地方裁判所が管轄裁判所になります。
これを下回る場合には、原則として簡易裁判所に提訴します。
金額が大きい過払い金裁判では、和解に代わる決定が使えないというのがデメリットです。
和解に代わる決定の手続き
和解に代わる決定では、異議が出されると失効してしまうため、通常は、当事者間で合意されている状態で出されます。
過払い金請求の中では、通常は、裁判外で交渉、合意ができたが、過払い金の支払日がかなり先で、裁判期日の延期では対応できそうもないという場合には、手続きとして、金融業者に対し、和解に代わる決定で良いか確認します。
良いとされた場合には、過払い金の和解書を作る代わりに、和解条項案を作ります。
その条項案を当事者間で詰めてOKならば、裁判所に和解に代わる決定を出してほしいとの上申書を送ります。
裁判所のチェックが入り、条項に問題がないなら、次回の裁判期日で和解に代わる決定を出すという流れになります。
和解に代わる決定上申書は、被告となる貸金業者から出されるのが原則ですが、過払い金を請求している原告から出すこともあります。この場合、裁判所は、被告に意見を聞きます。
和解に代わる決定上申書が出されたタイミングで、まだ裁判が始まって間もない、貸金業者から答弁書も出されていないような場合には、被告の担当者の連絡先を裁判所に伝え、裁判所から被告の担当者宛に確認が入ります。
問題なければ、第1回期日で和解に代わる決定が出されることになります。
裁判期日が迫っている場合には、これらの調整を速やかに進める必要があるでしょう。
和解に代わる決定と17条決定
以上のように、当事者の出廷が必要ない和解に代わる決定を使えるのは簡易裁判所のみです。
では、地方裁判所の場合には、出廷をしなければ裁判上の和解はできないのかというと、民事調停法17条の決定による解決をすることができます。
17条決定と呼ばれるものです。
調停は、裁判所が間に入り、当事者の話合いで紛争解決の合意を目指す制度です。
離婚・相続など家事問題の調停は家庭裁判所が管轄となります。
お金の貸し借りを含む民事の調停は、本来は簡易裁判所が管轄となります。裁判所は、民事調停で、職権で「調停にかわる決定」を出すことがあります。これが17条決定と呼ばれるものです。
地方裁判所での裁判でも、事件を調停に回すことができます。調停に付すという言い方をします。
裏技的に感じるのですが、地方裁判所の民事裁判で、和解に代わる決定のようなものを出したい場合、事件を民事調停に付したうえで、調停に代わる決定を出すことができるのです。
異議が出されなければ、事実上は、和解に代わる決定を同じ効果となります。
このほかに、書面でのやりとりを並行して進める受諾和解も地方裁判所の過払い金事件ではよく使われる和解方法です。過払い金の裁判では、こちらの方が多い印象です。
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