取引併存型の過払い金の判決
高松高裁平成31年2月1日判決
取引併存型の過払い金計算
貸金業者は、株式会社愛媛ジェーシービーです。
過払い金の計算方法について問題になった裁判例です。
第1取引と第2取引は、金銭消費貸借という契
約類型を同一にするのみならず、いずれも過払
金充当合意が認められる上、取引開始原因、同
一カードの利用、取引期間、取引方法、両者間
の付随事務処理等など主要な部分が共通してい
るということができるから、第1取引で生じた
過払金を第2取引における新たな借入金債務に
充当する旨の合意があったと認めるのが相当で
ある。
取引の内容は?
今回問題になった取引内容は、併存型と呼ばれるものです。
2つ以上の取引が同時に併存している場合の過払い金計算が問題になったものです。
借主は、平成3年8月12日、愛媛ジェーシービーとの間で、クレジットカード契約を締結しました。
愛媛JCBカードの交付を受け、キャッシングを利用。
これが第1取引。1回払です。
さらに、平成6年10月31日から、同じカードを利用して、キャッシングリボ払いを利用。これが第2取引。
それ以降、平成22年7月15日まで、2つの取引を併存しながら取引を続けていました。
借入日が同一の日も多数存在していました。
2つの取引について規定は?
キャッシング1回払及びキャッシングリボ払の両取引に関する規定は、同一の規定の中に置かれていました。
規約上は、借入後に返済方法を変更することもできるとされていました。
借主は、カード及び暗証番号を利用して、CD、ATMから借入れをすることができました。
その際、どちらの借入をするかは借入時点で選択できました。
両取引とも、毎月10日に銀行口座からの口座振替で支払がされていました。その際、両取引の返済額の合算額が一括して振り替えられていました。
取引の利率は?
長い取引だったので、約定利息の利率も変わっていました。
第1取引の約定利率は、契約当初から年27.8%、平成19年6月18日以降の取引では年18%となりました。
さらに、平成20年1月16日以降の取引は年17.95%
平成21年10月13日以降の取引は年18%
平成22年6月10日以降の取引は年15%
と変更されています。
これに対し、第2取引の約定利率は、平成6年10月31日以降は年16.8%でした。
その後の変動も、平成14年1月11日以降の取引は年18%
平成19年12月11日以降の取引は年17.95%
と変更されました。いずれも利息制限法の範囲内です。
利用可能枠は?
利用可能枠は、キャッシング1回払とキャッシングリボ払とは別に定められていました。
時期によって違いますが、例えば、平成12年3月時点の利用可能枠はキャッシング1回払で20万円、キャッシングリボ払が40万円でした。
これらの利用可能枠の変更は両取引とも別々に行われていました。
利用明細書の交付は?
愛媛ジェーシービーは、毎月カード利用代金明細書を借主に送付していました
そこにはキャッシング1回払とキャッシングリボ払の両取引及び利用可能枠が併せて記載されていました。
ただし、取引履歴を別に管理しているとの主張でした。
裁判所の判断は?
平成19年の充当合意の理論を前提にしています。
「同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において、借主がそのうちの一つの借入金債務につき制限利率を超える利息を任意に支払い、この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合、この過払金は、当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り、弁済当時存在する他の借入金債務に充当されると解するのが相当である。これに対して、弁済によって過払金が発生しても、その当時他の借入金債務が存在しなかった場合には、上記過払金は、その後に発生した新たな借入金債務に当然に充当される
ものということはできない。しかしながら、この場合においても、少なくとも、当事者間に上記過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)が存在するときは、その合意に従った充当がされるものというべきである(最高裁判所平成19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁参照)。」
第1取引内、第2取引内では、充当合意があることは当然だとされています。
そのうえで、第1取引と第2取引の一体性が問題とされています。
そこで、第1取引(キャッシング1回払)と第2取引(キャッシングリポ払)との取引の一体性について検討されています。
この点については、借主の意思を認定。
第1取引と第2取引は、いずれも継続的に借入れと弁済が繰り返されることが予定されているとし、このような継続的金銭消費貸借取引においては、借主は借入総額の減少を望み、複数の法律関係が発生するような事態が生じることを望まないのが通常であると解されるとしています。
借金の総額が減るのを望むのが通常だろうという認定ですね。
第1取引と第2取引というものの、ともに同一のクレジットカード契約に基づき同一のカードを用いて行われる取引であ
り、支払方法こそ別にするものの、愛媛ジェーシービーからの金銭消費貸借取引である点も共通するとともに、両取引共に長期間にわたり借入れと弁済を行うことが想定されていて、第1取引相互間、第2取引相互間では、いずれも過払金充当合意が認められること、実際にも第1取引と第2取引は並行して行われていること、借入れの方法も概ね共通して
いて、どちらの取引にするかは借入時に借主が選択することができること、支払日が共通し、支払も同一の銀行口座から合算して振り替えていること、明細書も同一であり、愛媛ジェーシービーが顧客単位で両取引の事務の相当部分をまとめて処理していることが認められるとして、取引の実態を認定していきます。
第1取引と第2取引は、金銭消費貸借という契約類型を同一にするのみならず、いずれも過払金充当合意が認められる上、取引開始原因、同一カードの利用、取引期間、取引方法、両者間の付随事務処理等など主要な部分が共通しているということができるから、上記のとおり、このような継続的金銭消費貸借取引においては、借主は借入総額の減少を望み、複数の法律関係が発生するような事態が生じることを望まないのが通常であることを考え併せると、第1取引と第2取引は、1個の基本契約に基づく取引であり、第1取引で生じた過払金を第1取引及び第2取引における新たな借入金債務に充当する旨の合意があったと認めるのが相当として、一体計算を認めています。
控訴もしていた愛媛ジェーシービー側の反論として、第1取引と第2取引は、系統を異にする別個の基本契約に基づく取引であるから、相互に過払金充当合意は認められないという点もありましたが、利用可能枠の金額の差異はさほど大きくないし、利率の差異も少なくとも平成19年6月にキャッシング1回払貸付の金利が下げられてからは微細なものであるとし、あとは、愛媛ジェーシービーの内部処理の問題に過ぎないと一蹴しています。
消滅時効の問題は?
過払い金請求時に争われやすい消滅時効の問題も争点になりました。
しかし、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、過払金返還請求権の消滅時効は、特段の事情がない限り、同取引が終了した時点から進行するとし、取引終了から10年は過ぎていないとして、過払い金請求を認めています。
1回払の返済などだと10年経過分が時効だと主張されることもありますが、取引が続いている以上、そのような主張が認められないのは、当然でしょう。