JCBの過払い金計算の判決
宮崎簡易裁判所令和2年12月25日判決
JCBの過払い金計算方法
宮崎簡易裁判所令和2年12月25日判決の紹介です。
JCBで複数取引が並行してされている場合の過払い金計算が問題になった事例があります。
他のクレジットカードも問題になる事例です。
今回の取引は、キャッシング取引(マンスリークリア方式・1回払い)とカードローン取引(リボ払い)が併存していたパターン。
一つの取引で発生した過払金を、弁済当時、もうひとつの取引の借金に充当するという計算方法です。
バラバラに計算し続けるより借主に有利な計算となっています。
JCBの複数取引
ニッサンカーライフJCBカード入会申込書に記載された会員規約によれば、本件契約において発行されるカードは「ニッサンカーライフJCBカード」と称し、株式会社日産カーライフネットワークと株式会社日産クレジット及びJCBが提携して発行されるもの。
会員にはニッサンカーライフJCBカード会員規定、ニッサンカーライフネットワークメンバーズカード会員規約及びJCB会員規約が適用され、会員は本件カードをニッサンカーライフネットワークメンバーズカードとして利用することもJCBカードとして利用することもできることになっていることを認定。
マンスリークリアは一体計算
キャッシング取引及びカード・ローン取引については、本件規約においては「キャッシング、カード・ローン関係条項」と題して、キャッシング取引は32条に、カード・ローン取引は34条にその定めがありました。
キャッシング取引については、月間(毎月16日から翌月15日まで)の利用限度額はJCB所定の額とし別途通知するものとされ、返済については本件規約9条を準用し、JCBに対する債務は、毎月15日に締め切り、翌月10日に会員届出の金融機関口座から口座振替の方法により支払うものとされていることが認められるとしています。
そうするとキャッシング取引は月間の利用限度額内であればその月に繰り返し借入れをすることが予定されており、各借入れの分を一括して翌月10日に返済がなされ、このような取引が繰り返されることが予想されていることになると指摘。
また、カード・ローン取引については、JCBから融資極度額を設定された会員は、その極度額の範囲内で繰り返しJCBから借入れができ、返済は毎月元金部分返済金1万円(ゴールド会員の場合は2万円)JCB所定の利息を支払うものとし、JCBが認めた場合には、いつでもJCBは融資極度額を減額し、または新たな融資を中止することができるものとされていることが認められるとしています。
2つの取引の基本契約は同じ
本件キャッシング取引及びカード・ローン取引は、本件契約という基本契約に包括された取引であると評価できるとしました。
なお、原告らは同一の基本契約に基づく取引であるから全体を1個の取引として一連一体計算すべきである旨主張するが、本件規約において各取引は別々の条項として定めがあり、同一取引態様と解することはできず、一連一体計算は相当ではないため、この点に関する原告らの主張は採用できないとして、借主の主張を排斥。
本件については、キャッシング取引を1個の取引、カード・ローン取引を1個の取引と解するのが相当であるとしました。
マンスリークリアの取引自体は一体計算を採用。
契約時の本件規約以外の合意内容が不明という前提
裁判所は、JCBの一部の主張を採用しませんでした。
「JCBCARD規約・規定集」は平成16年9月版の規約・規定集であるが、本件契約申込み時から10年以上経過した時期の規約・規定集であり、末尾に「会員規約に同意いただけない場合は、退会の手続きをとらせていただきますので、その旨をお書き添えのうえカードを半分に切って当社までご返却ください。」と記載があり、平成19年6月版及び平成20年11月版の各規約・規定集にも同趣旨の記載があるが、そもそもこれらの規約・規定集をJCBが交付したことを認めるに足りる証拠はなく、また、借主が内容を了知したと認めるに足りる証拠もないと指摘。
したがって、本件契約時にJCBとの間で合意した内容である本件規約以外の合意内容は不明であるとしています。
利息制限法所定の制限利率による計算方法及び充当方法
本件キャッシング取引とカード・ローン取引は各1個の取引であるから、それぞれを利息制限法所定の制限利率で一連一体計算すると、キャッシング取引については別紙1計算書記載の計算結果、カード・ローン取引については別紙2計算書記載の計算結果となるが、同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において、借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い、この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合、この過払金は、当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り、弁済当時存在する他の借入金債務に充当すると解するのが相当である、と最高裁判決を確認しています。
本件においては上記特段の事情を認めるに足りる証拠はなく、よって、本件においては、キャッシング取引において発生した過払金は、発生当時存在するカード・ローン取引の債務に充当されることになり、同様にしてその後カード・ローン取引において発生した過払金は、発生当時存在するキャッシング取引の債務に充当されることになるとして、横飛ばし計算を採用しました。
過去の最高裁判決からすると妥当な計算方法なのですが、採用されない裁判例も多くあり、注意が必要です。
悪意の受益者で過払い利息も認定
貸金業者が利息制限法所定の制限利率を超える利息を受領したが、その受領につき平成18年法律第115号による改正前の貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められない場合は、当該貸金業者は、同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、民法704条の悪意の受益者であると推定されるものとしました。
最高裁判決で認められている理論どおりです。
「特段の事情がある」というためには、少なくとも旧貸金業法17条及び18条が定める書面の交付を立証する必要があるところ、本件キャッシング取引について、具体的に法定書面が交付されていた事実を認めるに足りる証拠はないとして、キャッシング取引の制限利率超過利息受領について民法704条の悪意の受益者と推定されるものとしました。
なお、横飛ばし計算を行うことによって、キャッシング取引で発生する過払金が、制限利率内の取引であるカード・ローン取引の債務に充当されることによって、同取引において過払金が発生する場合があるが、その過払金については、その発生の前提となるキャッシング取引における過払金について、JCBに悪意の受益者性が推定されるのであるからカード・ローン取引において発生する過払金についてもJCBの悪意の受益者性を推定するのが相当であるとしました。
本件においてはこの推定を覆すに足りる事情を認めるに足りる証拠はなく、よって、横飛ばし計算によりカード・ローン取引について過払金が発生した場合は、JCBは民法704条による利息を付して返還する義務を負うことになるとしています。
過払金の消滅時効を否定
JCBは、キャッシング取引について、消滅時効を援用しているが、キャッシング取引は全体として1個の一連一体取引と認められるので、消滅時効の起算日は平成22年10月12日であり、本件訴え提起日は令和元年11月25日であるから、消滅時効は完成していないとして、JCBの主張を排斥。
過払金の充当を肯定
いわゆる横飛ばし計算と呼ばれる計算方法を採用しています。
複数の取引が並列しておこなわれている場合の計算方法です。一つの取引で過払金が出た場合に、もうひとつの借金の方にも充当するという計算方法です。
当事者の意思からすれば、全体の借金が減る方が良いだろうと考えると、この計算方法になります。
これよりも極端な計算方法はすべて一体というものです。
横飛ばし計算が採用されると、借金の方の元金が減って、そこにかかる利息も減ることになります。
通常は、過払い利息よりも借金の利率の方が高いので、バラバラに計算するよりも、借金が減る、過払い金は高くなるという計算方法です。
JCBに限らず、複数の取引が併存しているようなクレジットカードの過払金計算では検討すると良い方法です。
JCBは他のクレジットカードよりも利率が低いことが多く、過払金が高くなる事例は少ないですが、他のクレジットカードでもこの理論が使えると過払金を請求しやすいといえるでしょう。
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