貸付停止と過払金の判決
宮崎地方裁判所令和5年3月16日判決
新生フィナンシャル過払い金と貸付停止
新生フィナンシャル(レイク)に過払い金請求をしたところ、貸付停止措置がとられているから、10年以上前の部分は消滅時効だと主張され争われた裁判例です。
貸付停止措置の主張は、新生フィナンシャル以外に消費者金融もよくしてきますし、最近ではクレジット会社もするようになってきました。
注意が必要な論点ですので、チェックしておくようにしましょう。
過払い金の消滅時効
過払金の消滅時効がいつ始まるのか。
このテーマに関して、2009年1月22日の最高裁の判断により、基本的には、過払金を充当する合意が存在する取引が終了する時点からだとされました。
この過払金の充当合意は、即ち、過払いが生じた後、それを後の新しい借り入れに使用する合意のこと。これは契約文書や規約に明示されていない場合でも、基本的な取引(リボルビング払いのような形)として合意されるものです。
このような取引の原因を基本契約と呼んだりします。
過払い金の時効と貸付停止
最高裁は、この合意の解釈として、取引進行中は、過払金は随時返却されるものではなく、将来の債務に充てられるため、取引が終了する際にまとめて精算するのが当然だと判断しました。
そのため、取引が終わらない限り、たとえ10年以上前に生じた過払金であっても、消滅時効は進まないことが基本とされました。
貸金業者の側からは、例えば、借り手の信用状況が悪くなったり、融資の上限を超えたり、借り手の希望で融資を停止した場合など、「特別な事情」として過払い金の消滅時効が始まるとの主張があります。
しかし、実際の裁判では、ただ融資を停止しただけでは、消滅時効が成立するとは認められていないケースが多いです。
この論点は、貸付停止と時効と呼ばれます。
貸付停止と過払い金の時効
裁判所では、単に融資を停止した事実だけでは、時効が進行するとは認定しにくい傾向があります。
その背景には、融資の再開が可能な場合、即ち、契約上、新たな借り入れの可能性が残っているという事情が影響しています。
要するに、消滅時効の問題は、単純な事実関係だけではなく、契約の性質や合意の内容、さらには具体的な事情など、多くの要因が絡み合って判断される複雑な問題です。
従って、過払金の消滅時効に関する主張や判断は、一概には言えないものとなっています。
新生フィナンシャルと貸付停止
今回の裁判例は、新生フィナンシャルを相手とするものです。
新生フィナンシャルは貸付停止措置により過払い金は消滅時効になると主張。
貸付停止措置の根拠としては、
平成20年8月に「与信ブロック告知済み」という記載の交渉記録
その後新たな貸付けがないこと
といものでした。
判決では、新生の反論を否定
裁判所は、新生フィナンシャルの反論を排斥。過払い金約540万円の請求を認めました。
判決では、基本契約がある以上再開の可能性はあること、与信額を0円とした後に再審査をしていることなどを理由にしています。
与信審査については、新生フィナンシャルでは「顧客与信枠」の一覧が出て、このときに与信審査をしていることから、上記の再審査証拠として有利に働く可能性があります。
今回の判決は、宮崎地方裁判所令和5年3月16日判決です。
貸付停止に対する主張
被告は、平成20年9月7日、今後原告に対して新たな融資を行わないという貸付停止の措置をとり、本件基本契約における過払金充当合意はこの時点で失われ、本件訴訟の提訴日である令和4年3月4日の10年前である平成24年3月4日より前に発生していた過払金返還請求権は時効により消滅したと主張。
これに対し、原告は、基本契約は解約されていないこと、
契約限度額が0円となったとしても、貸付停止措置とは異なること、
信用回復がありうること、
被告は貸付停止措置後に原告の与信審査を行っていること、
などから、過払金充当合意は失われておらず、本件取引は全て一体の取引であって、消滅時効期間は経過していないと反論しました。
貸付停止に関する裁判所の判断
裁判所は、確かに、原告は、平成20年9月7日、被告からの新たな借入れができない状況になり、これが原告に告知され、また、本件取引経過によれば、実際に原告はそれ以降新たな借入れをしなかったと認定。
しかし、本件基本契約が存在している以上、貸付再開の可能性が全くなくなったとは認め難く、また、被告自身、平成21年1月7日において改めて原告の与信枠を0円としており、原告の与信を再審査しているとうかがわれることからすると、原告の与信状況が回復すれば借入れが再開可能であったとうかがわれ、被告が原告の与信枠を0円としたことをもって、それ以降原告からの借入れが一切できないものとなったとは認められず、原告と被告との間の本件基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借における過払金充当合意が失われたとは認められないと結論づけました。
原告の被告に対する本件基本契約に基づく本件取引に係る過払金返還請求権の消滅時効は、平成20年9月7日ではなく、本件取引の終了時点(令和3年6月8日)から進行するというべきであるから、消滅時効期間が経過したとは認められず、被告の上記主張は採用することができないとして新生フィナンシャルの主張を排斥しています。
貸付停止による過払い金の時効を主張されている人は参考にしてみてください。
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