社債と利息制限法の判決
東京地方裁判所令和元年6月13日判決
社債と利息制限法
社債に利息制限法の適用があるか争われた事案がありますが、否定する裁判例があります。
利息制限法の解釈についての裁判例、東京地裁令和元年6月13日判決を紹介します。
事案の概要
投資システム開発会社が、資金調達のために、平成24年3月23日から平成27年11月20日まで、社債発行の募集をしました。
203回に渡る募集で、1回の募集で社債を引き受ける者は1名。
金額や利息の利率は各回によって違っていましたが、ほとんどの回で利息制限法所定の上限利率を超えていました。
中には、年利が90%超のものも。
被告は、この社債の引き受け申し込みを複数回し、支払いをしました。
投資システム開発会社から、被告に対しては、いずれも償還と募集どおりの利息の支払いがされました。
これらの手続きが、会社法の規定する社債に当たることは間違いありませんでした。
その後、投資システム開発会社は破産手続開始の決定を受けました。
選任された破産管財人が、過去の取引を調査し、社債取引については、いずれも利息制限法所定の上限を超える約定
金利で弁済を受けたと主張。
原告となり、被告に対し、利息制限法に基づく計算をし、過払い金として不当利得返還請求権に基づき、同法所定の上限を超える利息相当額合計726万7866円と過払い利息支払を求めて提訴しました。
裁判所の判断
請求棄却。
利息制限法は、金銭を目的とする消費貸借における利息」の利率を一定限度に制限している一方で、社債は、会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、会社法676条各号に掲げる
事項についての定めに従い償還されるものをいうところ(同法2条23号)、社債発行会社にとっては、社債の割当てを受けた者から受け入れた金銭と同じ額の金銭を一定の期間経過後に利息を付して返還する債務であるという点や、会社の財務上の機能の点では、金銭消費貸借契約による金銭債権と同様の性質を有するということができると、性質からの前提を確認。
しかし、社債の引受けを申し込んだ者は社債発行会社による割当てによって社債権者となるところ(会社法680条1号)、社債発行会社は、割当てを受ける者を定め、その者に割り当てる募集社債の金額及び金額ごとの数を定めることができ、割り当てる募集社債の金額ごとの数を申込者が引き受けようとする数よりも減少することができること(同法678
条1項)、また、債務の成立に払込みを要しないこと(同法676条10号)、分割による払込みも認められること(同条12号、会社法施行規則162条1号)、額面未満の発行も認められること(同法676条9号)など、返還約束及び約定金額の金銭の授受をもって当該約定金額につき効力を生ずる金銭消費貸借契約(民法587条)とは法律上の規律を異にしているとして、金銭貸し借りと社債の性質の違いについて複数の点を列挙。
さらに、社債権者は、社債権者集会の決議により、資本金の減少等に対する異議を述べることができる(会社法740条1項、449条等)など、社債権者には、会社法の規定により、単に会社に対して金銭債権を有する者とは異なる権限が付与されていると、特性についても言及。
したがって、会社法の規定する社債は、金銭消費貸借契約による金銭債権とは法的性質を異にするものであると考えられるとしました。
また、利息制限法の趣旨は、金融の面における経済的弱者の保護にあると解されるところ、金銭消費貸借契約においては、債権者が債務者の窮状に乗じることにより、債務者にとって不本意な高利率になる可能性があり、経済的弱者である債務者を保護する必要があるといえると趣旨確認。
しかし、債務者である社債発行会社が類型的に経済的弱者であるとは認められないこと、社債発行会社は、資金調達の必要性や引受けの見込み等の諸般の事情を踏まえ、利率も含めて自ら社債の内容を設定することができること、社債に利息制限法が適用されるとすると、社債発行会社の自由な資金調達が阻害されるおそれがあり、また、一般消費者も含まれ得る社債権者の利益を犠牲にして、債務者である社債発行会社を保護することになることからすれば、社債に利息制限法を適用すべき事情があるということはできないとしました。
以上によれば、会社法の規定する社債が、利息制限法1条に規定する「金銭を目的とする消費貸借」に当たるということはできず、会社法の規定する社債に利息制限法は適用されないというべきであるとしました。
そして、このことは、当該社債が、私募債、すなわち、金融商品取引法に定める多数の者を相手方として行う取得の申込みの勧誘である募集(同法2条3項1号)に該当しない私募により発行される社債であるか否かによって左右されないというべきであるとしました。
社債と利息制限法
社債は、会社からすれば借金のようなものです。
借金については、利息制限法という強行規定があります。
ところが、会社法の社債に対して、利息制限法が適用されるかはハッキリしませんでした。
この判決は、利息制限法適用の判断をした初めての裁判例だと言われます。
利息制限法は、適用対象として「金銭を目的とする消費貸借」としています。
消費貸借は、法律上、要物契約とされており、社債の成立では、払込みは必要とされておらず、要物契約でないことから、形式的に消費貸借に当たらないのではないかと指摘されていました。
ただ、消費貸借契約でも、従前から、判例では諾成的消費貸借契約が認められていました。
2020年改正の民法では、要式契約としての書面による諾成的消費貸借契約も規定されました。
要物契約である点は、必ずしも本質ではないことになります。
社債の借主保護
利息制限法の趣旨は、借主保護にあります。
社債発行は企業が行うもので、強行規定でまで保護する必要があるかは疑問があるでしょう。
ただ、社債とはいっても、大企業の公募債以外に、中小企業の私募債が活用されることも増えました。
中小企業をターゲットとするヤミ金融も多いことから中小企業保護の必要性もあります。
今後の判断が注目されるところです。
本件に関しては、その後、最高裁判決が出ました。
概ね地方裁判所の判断を維持したものといえます。
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